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3月30日,文部科学省は,2011年度から小学校で使われる教科書の検定結果を公表しました。新学習指導要領に基づく初めての教科書です。

現行の学習指導要領は,ご存知のとおり「生きる力」を育む「ゆとり教育」を掲げたもので,それ以前に比べて大幅に学習内容が削減されていました。(2003年度の検定では「発展的記述」を取り入れるなどのいわばマイナーチェンジはありましたが。)

しかし,その結果生じたとされる学力低下という課題を克服すべく,新学習指導要領では,学習内容を再び約3割増やしており,「揺り戻し」の色彩が顕著です。

今回,その新指導要領に基づく2009年度検定で合格した148点の教科書では,いずれもページ数が大幅増加。「ゆとり」に合わせた2000年度の検定教科書に比べて,平均ページ数が全体で43%も増えました。マイナーチェンジを経た現行教科書と比べても25%増ということになります。

特に増加が目立つのは,いわゆる主要4教科の教科書で,現行教科書に比べて平均27%(たとえば,算数で33%,理科で37%増),2000年度のものと比べると50%も増えています(算数・理科とも67%増)。

さて,学習内容3割増に対して,教科書ページ数4割増ということについて,文部科学省は「反復学習や図版の多用などで,出版社がより理解しやすい工夫をした結果では」としていますが,何にせよ極めて大きな変化です。みなさんはこれをどのように受け止めていらっしゃいますか?

また,今年度小学校を卒業する子どもたちと,来年度入学する子どもたちとでは,卒業時の学力にどのような違いが生じるのでしょうか?在校生の子どもたちが来年度教科書を手にしたとき,今年度までの教科書とのあまりの厚さの違いに,一体どんな反応を示すのでしょうか?…このようにいろいろなことを想像すると,「教育」という公共事業の影響力と責任の大きさを改めて実感してしまいますね。これは,お子さんを持つみなさんにはなおのことと思います。

しかし,かといって,振り子のように常に行ったり来たりをくり返す日本の教育政策の批判に終始するというのも何だかおかしな気がします。それには2つ理由があります。

もちろん政府には,強い責任感と鋭い先見の明を持って,子どもたちのよりよい教育のために最善をつくしていただきたい。でも,その義務はまず私たち大人一人一人にあります。それが一つめの理由です。学習指導要領や教科書がどんなものでも,それをどうフォローするか,そこからどう膨らませるか,先生や親はもちろん周囲のあらゆる大人にできることはやはり大きいはずだからです。

そしてもう一つは,教育の違いは本来当たり前のことであり,むしろそれをいかに受け入れられる人間に育てるかということが教育の真の目的なのかもしれないと思うからです。屁理屈のように聞こえるかもしれませんが,そもそも私たちが生きる社会は,世代や地域,そして現実的には収入などにより,大きく異なる教育を受けた人々がかかわり合って形成されているということを改めて思い起こしてみてください。真の教育の成果とは,本当はこうした各自のバックグラウンドの,時には絶望的な断絶とさえ感じられるほどの違いを,どれほど軽やかに飛び越えて,他人とのコミュニケーションをとれるかということに結実するのではないでしょうか?そして,このことを考えると,私たち自身がまずこれをどれほど意識し,子どもたちの手本となる思考・言動をできているのか,身につまされることが多くはないでしょうか…?

さあ,いよいよ来年度から「ゆとり」よ,さらば!です。教科書が分厚くなり,学習内容も大幅に増える。学力向上という成果が必ず出なければおかしい状況になりました。(その意味では,私たち大人の言い訳の「ゆとり」もなくなるということなのかもしれませんね。)

しかし,その「学力」の「本質」が問われるのは,おそらくテストの点数ではないのでしょう。新しい教育を受けて育った子どもたちがどれほど自分と他人との間の教育の溝を自在に横断し,他人とのかかわりを広げられる大人になるのか―私たちはそうした真の教育の目標を見失わないようにしながら,子どもたちの成長を長い目で見守っていかなければならないのではないでしょうか?

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